「〇〇さんちのモクレンが咲いたの」

2020.03.10

竹下通りの裏に、ハクモクレンが咲いた。

ハクモクレンは、花が肉厚でふっくらとしている。

優雅で華やかで、大木になるので、

立派な家の、日当たりの良い庭に似合う樹だ。

 

高校生の頃、夢中になって読んだ庄司薫の小説を思い出した。

「〇〇さんちのモクレンが咲いたの」は

「白鳥の歌なんか聞こえない」※ に出てくる由美のセリフである。

由美の幼友達である主人公の薫は、

学生運動で東大受験が無くなった年の日比谷高校の3年生。

お手伝いさんのいる、

例えば麻布の高台にあるような、それなりの家に住んでいる

典型的な都会の坊っちゃんだ。

優しくって、繊細で、物知りで、シャイな薫は

当時、田舎の女子高生だった私に、とても新鮮に映った。

 

門があって、玄関まで少し距離のあるような山の手のお屋敷は、

徐々に高級マンションに建て替わり、

近ごろでは、あまり見かけなくなった。

 

薫は、あれからどうしているのだろう。

小説が発表されてから半世紀にもなるのに、

今でも、薫くんは私のお気に入りの男子だ。

 

※庄司薫の芥川賞を受賞した「赤頭巾ちゃん気をつけて」に続く青春小説の第2弾。映画化もされ、当時話題になった。

 

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